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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)516号 判決 1954年10月14日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告訴訟代理人内藤丈夫、同青木彦次郎の上告理由第二点について。

論旨は「本件審判の範囲は裁決の基を為す訴願に申立てられた事項に限定さるべきであり、」当事者が訴願でその事由として申出でなかつた所論の事実を斟酌した原判決は違法であるというに帰着する。しかし、公職選挙法二〇三条二項によれば地方公共団体の議会の議員の選挙の効力に関する訴訟は同法二〇二条一項の規定による異議の申立に対する決定及び同条二項の規定による訴願に対する裁決を受けた後でなければ提起することができない旨規定され、いわゆる訴願前置主義が採用されているのであるが、この場合においても訴願は単に都道府県選挙管理委員会をして選挙の効力に関する市町村選挙管理委員会の決定を再審査せしめ、これが是正の機会を与え以て無益な訴訟の提起を回避せんとしたに過ぎないものである。すなわち訴願は行政権の作用として行政庁のなす再審査の手続なのに対し、訴訟は司法権の作用として裁判所が当該行政庁の行政活動の合法性を審判する手続であり、この両者は同一手続における続審的段階をなすものではない。この事は訴願と訴訟とが、訴願庁の裁決の内容によつては常に必ずしも当事者及びその審判の対象を同じくするものでないことに徴しても明らかであり、従つて法律も所論のように訴願において主張された事実でなければ訴訟において斟酌し得ないというような制約を規定してはいない。そして本件訴訟において所論の事実が当事者により主張されたものであることは記録上明らかであるから、原審がそれらの事実を判断の基礎として斟酌したからとて原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。論旨は採用に値しない。

同第九点及第一〇点について。

論旨は要するに、原判決が、訴願庁たる被上告人において職権を以て事実を探知しこれに基づき選挙無効の裁決をなした違法を是認し(第九点)、また本件適法な不在投票はいわゆる潜在的無効投票に外ならないのであるから、公職選挙法二〇九条の二に従い各候補者の得票数から当該無効投票を按分して差引くべきに拘わらず、事ここに出でなかつたのは違法である(第一〇点)というのである。しかし訴願においては訴訟におけるが如く当事者の対立弁論により攻撃防御の方法を尽す途が開かれているわけではなく、従つて弁論主義を適用すべき限りではないから、訴願庁がその裁決をなすに当つて職権を以つてその基礎となすべき事実を探知し得べきことは勿論であり、必ずしも訴願人の主張した事実のみを斟酌すべきものということはできない。次にいわゆる潜在的無効投票なるものは公職選挙法二〇九条の二の説明の示す如く当選の効力に関する異議の申立、訴願の提起又は訴訟の提起があつた場合において、各候補者の有効投票の計算方法について認められたものに過ぎない。すなわち潜在的無効投票が所論のように各候補者の得票数から按分して差引くべきものとせられるのは、選挙そのものは選挙の規定に違反することなく適法に行われたに拘わらず選挙の当日選挙権を有しない者の投票その他本来無効なるべき投票であつてその無効原因が表面にあらわれないものでしかも有効投票に算入されたことが推定され、且つその帰属の不明なものあることが判明した場合に限るのである。

もし、選挙そのものが選挙の規定に違反しそれにより選挙の結果に異動を及ぼす虞があつて無効たるべき場合においては、たとえ当選の効力に関する異議の申立、訴願又は訴訟の提起があつた場合にあつても、選挙管理委員会又は裁判所はその選挙の全部又は一部の無効を決定し裁決し又は判決しなければならないのである(同法二〇九条参照)。しかるところ、本件訴は選挙無効の訴であり、原判決は判示事実を認定しそれに基づいて本件選挙は選挙の規定に違反し、しかも選挙の結果に異動を及ぼす虞ある場合に該当するものとしてその無効なることを判示したのである。この原判示は首肯するに足る。

それ故論旨はいずれも採るを得ない。

同第一点及び第三点乃至八点について。

所論は違憲をいう点もあるがその実質は単なる法令違反、事実誤認の主張を出でないものであつて、いずれも「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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